きっと、希望の歌

ねもと

つい先日、映画『Canta! Timor(うたえ! ティモール)』を観に行った。

恥ずかしながら、パルシックに入るまで東ティモールという国が存在していたことすら認識していなかった自分にとって、周りから「とても良い」と評されるこの映画は登竜門のように感じられ、ずっと観たいと思っていた。

東ティモールを舞台にした110分のドキュメンタリーは、子どもたちの歌声からはじまる。ギターを弾く青年の周りに集う子どもたちのなかには、カメラに目線をよこす子がいたり、笑顔の子がいたり、仏頂面の子がいたり、その子の耳元でわざと大声で歌う子がいたりして(最後にはその仏頂面の子は笑い出す)、うまく歌おう、そろえて歌おう、なんてことより、力いっぱい、元気よく、ありのままで歌う、歌いたいから歌っているようで、そんな姿になんだかしょっぱなから泣きたくなった。

東ティモール人の口を通して語られる、つらい統治と虐殺の歴史。それを生き抜いた人たちのなかには私と同じ年齢くらいの人がいて、自分がそうした状況にいたらどうなっていただろうか、と想像すると胸がぎゅっとなる(もっとも、撮影は2003年なので、今ではずっと年上なのだが)。その折々にはさまれる歌がほっと一息つかせてくれる。

その歌がどれもとても良い。歌詞は統治時代のつらさを表しているものが多く、決して明るい歌だとは言えないのだけれど、その「生々しさ」が感情に訴えてくる。小さな希望を込めて統治下でひっそりと歌われたそれらは、きっと団結力を高めるもので、力の源だったのだろうと思いを馳せる。歌の力ってすごい、改めてそう思わされた。

傷はいえていないし、記憶は鮮明だけど、歌いたいときは歌うし、おかしいときは笑う。抑圧を経験した幼い子どもたちが、何もまとわず川を全力で駆けて、無邪気に笑い転げる。彼らは生きているし、これからも力強く生きていく、そんなことを思った。

この作品から切実に伝わってくる一つ一つの思いは、映した人が、映す人のずっと近くにいたから可能だったのだろう。

最後に登壇してお話ししてくれた、監修で報道写真記者の南風島渉さんがこう言った。

「彼らは世間に知られず、むしろ目を背けられてきた。それでも、自分たちの正義を、平和を、信じて勝ち取った」

 一杯のコーヒーにだって歴史がある。

そして、今でも日に当たっていないだけで、理不尽な状況で苦しんでいる人たちがいる。

過去から学んで、今に生かしたい。自分には何ができるだろうか。

いつか、コロナを乗り越えたら、子どもたちに歌を教えてもらいに行きたい。慣れない言葉で、音程をトチりながらも、合唱できたらきっと楽しい。あの歯茎が見えるほど大きい口で笑うおじいさんには会えるだろうか。市場でお友だちと豪快に笑うおばさんから果物を買ったら、「お釣りがないのよー」なんて言われるかもしれない。 

まずは、東ティモール流の砂糖を大量に入れた甘ーいコーヒーを片手に、茶飲み話なんてどうだろう。

 

東ティモールについてはこちらから: https://www.parcic.org/timor-leste/
『Canta! Timor』についてはこちらから: https://canta-timor.com/

『Canta! Timor(うたえ! ティモール)』

監督:広田 奈津子
助監督/音楽監修:小向 サダム
監修:中川 敬(ソウル・フラワー・ユニオン)
   南風島 渉(フォトジャーナリスト『いつかロロサエの森で―東ティモール・ゼロからの出発(たびだち)』著
スチール:小幡文人/直井保彦
ドキュメンタリー/カラー/DV/110/4:3/ステレオ/2012年東ティモール日本/日・英・テトゥン語/字幕:日・英・仏・テトゥン語/自主制作・初監督作品

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